Our Topics空間を演出するOOH ―通勤・通学の中での非日常体験―

目に鮮やかな緑がさわやか駅構内に芝生が登場

スポーツ振興くじ「toto」の売上げにおける収益がさまざまなスポーツ振興の助成に役立てられているのをご存じだろうか。totoの運営・販売を行っている日本スポーツ振興センターは、3月2日からの7日間、JR新宿駅(北通路内)の駅構内広告を通じて、同センターのスポーツ振興に対する理念を広報する活動を展開した。
助成事情の象徴でもある芝生の鮮やかな緑を表現するため、駅構内約7メートル幅通路いっぱいに100平方メートル以上にわたる芝生模様のフロアシートを敷き、通勤・通学者に対して同センターの掲げる理念を強くPRした。
芝生柄のフロアシートに合わせて、隣接する広告ボードには青空のビジュアルが。
さらにそこには、「芝でプレーするよろこびが、みんなのものになりますように。」というコピーが書かれ、スポーツ振興への思いを表現している。普段、急ぎ足で通過されるであろう日本一の乗降駅で、少しでも歩を緩めてもらい、スポーツ振興くじのtotoが日本の振興事業に貢献していることを、ひとりでも多くの人々に理解してもらうためのメッセージ広告である。
このフロアシート広告に写っている芝生は、本物の芝生を撮影し、合成した画像である。天然の芝のぬくもりや目に鮮やかな緑を体感してもらえるよう、細部にまでこだわったそうだ。駅の一角に出現した青空ボードと芝生フロア広告は、忙しく駅を通り抜けていく人々の中にさわやかな風を吹かせたことだろう。

ダイナミックな広告展開今後は規制との戦いも

こうした駅の空間ジャック事例はほかにもある。「キットカット」を販売するネスレ日本は、定期的に受験生を応援する「キット、サクラ、サクよ」キャンペーンを実施してきた。2004年からは、モチーフとなっている満開の桜のビジュアルを全国の鉄道会社と共同で駅に展開したのも記憶に新しい。名古屋地下鉄名古屋駅では柱巻き広告とフロア広告を併せた空間ジャックを、東京大学近くの東京メトロ本郷三丁目駅においては、フロアはもちろん天井や改札口までをラッピングする立体的なキャンペーンを行った。
また06年にはハーゲンダッツジャパンもナッツを使用した商品コンセプトに合わせて、落葉模様のフロアシート広告を掲出した。東急田園都市線渋谷駅構内の通路において大型ボードに商品告知を、さらに床面にはまるでそこに落葉したかのような本物そっくりの落葉を模したシートを敷いた。
このようなダイナミックな事例が生まれている一方、歩行者の事故防止などの観点から、現在フロアシートには、実施事例の増加に伴い、さまざまな規制がかかってきている。鉄道会社によって見解はさまざまだが、たとえば都道下にあたる地下通路には一切掲出が不可となっている。また可能な場所であっても、鉄道利用者の弊害にならないよう電鉄側も最新の注意を払いながらの広告展開をしている状況だ。「人員輸送」という第一目的の中で展開するがゆえに、規制との戦いとなる交通広告。
しかし、今回の芝生柄フロアシートを用いた空間ジャックのように、忙しい日々を送っている利用者に、ちょっとした非日常体験を提供する広告であれば、公共施設自体に対する印象も良い方向へと変えていくのではないだろうか。

※このコラムは「宣伝会議」2009年3月号からの転載です。