Our Topics特殊広告で差をつける ―シズル感を表現する巧みな手法―

安全基準をクリアした車内に浮かぶペットボトル広告

年度代わりを控えた3月末。入学や就職など、新生活を間近に控えた人にとっては、1年を通しても目に映るものが、印象深く記憶に残る季節だろう。そんな季節性を捉え、交通広告ではユニークな特殊ポスターを掲出し、定番商品のブランドイメージのベースアップを図る出稿が見られた。
電車内でハッと目を引くペットボトル型の中づり広告を掲出したのは、サントリーの「ペプシネックス」。3月25~26日にJR東日本の山手線のみに掲出されたこの広告は、実際のペットボトル素材を使用し、商品のボトル型をかたどった特殊ポスターだ。
一瞥しただけでは、さも実際の商品が車両の中に浮かんでいるような錯覚に陥るほど精巧に作られており、よく冷えたペプシネックスのシズル感が巧みに表現されている。思わず手を伸ばしたくなるクリエイティブだ。
中づり広告は乗車してすぐ目に飛び込んでくる広告媒体であり、車内媒体の中でも視認率が69%と最も高いとされている(関東交通広告協議会広告調査レポート06より)。それゆえ、掲出の規制も細かく決められており、たとえば今回特殊ポスターを掲出したジェイアール東日本企画では、広告面の片面あたりの膨らみは3㎝以内、素材は軽量で軟性であることなどの条件を掲げている。万が一落下した際には、乗客の安全性を第一に考えなければならない。旅客輸送という第一目的がある鉄道会社にとっては然るべき基準であるが、こういった規制をクリアすることがクリエイターや媒体担当の使命ともなっている。

規制との調整ができてこそ優れたクリエイティブといえる

今回のペットボトル型中づり広告は、ペットボトルの薄い素材を用いたことで、軟性及び軽量化を実現。安全性への配慮がなされている。また「のんだあとはリサイクル」の標記にあわせて、このポスターも掲出終了後にはリサイクルされる旨が明記されている。細部にまでこだわりが感じられるクリエイティブだ。
同時期に掲出された窓上広告もユニークで、B3サイズのポスターに3つずつ、計12個のペットボトル型スイングPOPがつけられ、電車の振動でゆらゆらと揺れていた。通常、ポスターが掲出される位置にたくさんのボトルが並べられており、POPのボトルが踊っているかのような動きが新鮮で、視線を集めるアイデアが施されていた。
特殊ポスターは鉄道会社により規制が異なり、使用素材や特別作業料など場合によってさまざまな条件が課されることが多い。そこで、最終的には掲出予定サンプルを作成して審査を受けるという手順が一般的だが、その都度交渉が必要となるため、非常にナイーブな分野といえる。
乗客の目を引く広告を作ろうとすれば、必然的に発生するのが規制との調整。一見クリエイティビティの可能性を制限するようなシステムではあるが、見た目の面白さと確かな安全性を兼ね備えたものこそが、交通広告において優れた広告と評されるはずである。

※このコラムは「宣伝会議」2009年4月号からの転載です。