Our Topics先端テクノロジーを搭載した電車内デジタルサイネージ

視聴者の年齢・性別で
表示を変えるサイネージ広告

2020年3月30日から1週間、サッポロビールは、埼玉高速鉄道の新設された電車内デジタルサイネージ「ダイナミックビークルスクリーン」を使い3商品の広告を行った。驚くことに、サイネージの前にいる乗客の年齢や性別によって、広告の動画素材を出し分け表示を変えるという前例のない試みを実施したのである。
サイネージの前に40歳以上の人が50%以上いる場合には「ヱビスビール」、40歳未満が50%以上の時は「サッポロ生ビール黒ラベル」の広告が放映される。さらに、1日のうち18 ~24時の時間帯は、上記の条件に加え、最優先として女性比率が30%以上の場合に「サッポロチューハイ99.99<フォーナイン>」の広告が放映される仕組みだ。
デジタル広告なら個人に最適化した素材を出すことも可能だが、OOHでは同時に多くの人々に訴求するので、その場にいる乗客の属性の割合で出し分ける手法を考えたという。媒体運営会社によると、このサイネージにはセンシングカメラ、エッジコンピュータ、放映装置などを個々に搭載し、画像センシングなどの先端テクノロジーを使うことで、視聴者の属性を認知しているという。
一見、複数の広告が順番に繰り返し放映されるロール形式のようだが、実はサッポロビールの広告が開始される5秒前までの1分間の状況をセンシング。その結果にもとづき、あらかじめ入れておいた最適な素材を自動的に出し分ける。カメラで取得した映像はリアルタイムで処理して統計データ化し、即座に破棄しているため、一切録画を行わず、個人情報の取り扱いにも配慮している
実際に車両に乗って見てみたが、同じタイミングでもサイネージの設置場所によって違う広告素材が放映されているのが確認できた。ターゲットに効率よく訴求をすることが比較的難しいとされるOOHメディアにおいて、高い即時性をもって広告を出し分けする試みはうまくいったようだ。毎日どの素材が何回放映されたか。すなわち、どんな属性に多く接触したかもデータとして把握できるという。

車内サイネージの
ダイナミックDOOHの進化形

このような、リアルタイムにサイネージの前にいる人々の属性に応じて動的に広告を切り替える広告形態は、ダイナミックDOOH (Digital Out Of Home)と呼ばれる。その時、その場所にいる人々に相応しい広告が放映される。花粉の飛散が多い時期や紫外線が強い時期に、毎日それらの程度を可視化して情報を出す「指数連動企画」もある意味これに該当するが、ほとんどのDOOHは、それほど更新頻度は多くない。乗客をターゲティングする動きは「女性専用車両」だけで放映できる広告商品が該当するが、東京地区では男性が乗車できる時間帯もあるので、常時ではない。そういった点を考えると、この媒体は、車内サイネージにおけるダイナミックDOOHの進化形と言え、期待できるものだ。他の路線まで普及するかどうかは未知数だが、参考にしてみてはいかがだろうか。

※このコラムは「宣伝会議」2020年6月号からの転載です。