Our Topicsデジタルサイネージが乗降ドアの隣にも、媒体それぞれの特性を生かしたOOHメディア展開

「伝統×先端の融合」内容と媒体が一致したキャンペーン

2018年9月10日から3週間、JR東海は奈良の観光キャンペーンで東京メトロ銀座線の広告貸切電車を利用した。広告貸切電車は1編成ほぼ全ての電車内の媒体を1社独占で使える広告商品である。
この秋はならまち・元興寺(がんごうじ)の観光客誘致を目的とし、世界遺産に登録され今年創建1300年の元興寺と、その旧境内地でお洒落なお店が集まる注目のエリア「ならまち」の魅力を紹介するものだった。例えば、元興寺の瓦には、ら1400年前に作られたものが今も使われていることなど、遠い奈良時代の息吹に触れ、歴史ロマンを感じさせる。一方、「たのしく たしなむ。大人ならまち」としたポスターには、昔ながらのたい焼き屋さん、築100年の古民家を改装したレストラン、抹茶とお菓子が味わえ、自分でもお茶を点てる体験もできる話題のお店などが紹介されていた。多くのポスターには和服姿のモデルの女性が写って、インスタ映えする写真の見本のようにもなっており効果的な使い方と思えた。
注目したのは、東京メトロの車両だ。「レトロライナー」とした車両は銀座線が開業した当初の電車の雰囲気を忠実に再現した車両「特別仕様車1000系」だ。もともと、銀座線の新型車自体は「伝統×先端の融合」がテーマで、「見た目はレトロだが、中身は最先端の車両」というコンセプトで作られている。2編成だけ作られた特別仕様車は昭和のレトロ度合いをさらに進め、壁や乗降ドアは木目調、手すりは真鍮色、座席は緑色のモケット、つり手は「涙型」をしている。さらにポイント通過時の室内灯消灯・予備灯の点灯を再現する機能なども備えており、ある年齢以上の者にはノスタルジーを感じさせるつくりだ。一方、最先端の部分と言えば、デジタルサイネージだろう。通常のドアの上の3面だけでなく連結部分の両側(写真2)と、おそらく日本で初めてドアの横にもデジタルサイネージが設置してあり(写真3)、ここでも広告展開を行うことができるのである。サイネージの厚さも27.5mmと非常に薄く車両に調和している印象だ。ポスターと同じものを静止画の切り替えで放映していたが、落ち着いた趣が感じられた。
JR東海と言えば京都や奈良などの日本の「伝統」的な観光地にアクセスできる鉄道会社だ。その一方で、JR名古屋駅の100面サイネージを中心にデジタル化を進行させたり、リニア中央新幹線の建設を進めたりなど「最先端」のイメージもある。その意味では伝統と先端が融合した車両での広告貸切電車の活用は、イメージ的にもふさわしい選択だったと言えよう。実際、「商材・意匠がレトロライナーのコンセプトに合致している内容」でないと掲出を認めない厳しい媒体審査基準があったが、見事クリアしている。
この伝統と先端が融合した車両では、歴史背景の強い商材、周年記念時のロングセラー商品の復刻版(レトロテイストなパッケージ商品)などの活用も考えられる。参考にしてみてはいかがだろうか。

※このコラムは「宣伝会議」2018年12月号からの転載です。