Our Topicsコロナ禍を追い風にした企業をOOH広告から見る

コロナ禍の厳しい状況が続いているが、企業の中にはこの状況をビジネスチャンスにしたところもある。いわゆる「巣ごもり需要」というコロナ禍における消費者ニーズをうまく捉えたケースがその典型だ。多くの企業が売上を落とし、広告費を縮小、あるいは出稿を控えている中、OOHメディアを活用したそのような広告主をいくつか紹介する。

「あつ森」のヒットだけではないゲーム業界

2021年5月6日、任天堂(株)は2021年3月期の決算を発表した。売上高が前年度比34.4%増の約1兆7,589億円、純利益が同85.7%増の4,803億円だった。売上高は過去2番目、純利益は過去最高。好調の理由は家庭用ゲーム機「NintendoSwitch」と「Nintendo Switch Lite」が前年比37.1%増の2,883万台を売り上げたことだ。大きな話題を呼んだヒット作「あつまれ どうぶつの森」が2,085万本、「マリオカート8 デラックス」1,062万本など、ソフトウェアが前年比36.8%増の2億3,088万本も売れた。任天堂の躍進は、「体を動かしたい」「家にいても人との交流を持ちたい」「社会的な距離感のストレスから逃れたい」といった消費者のニーズにマッチしたゲームを提供したからだという。OOH広告は、JR東日本や東京メトロの電車内のデジタルサイネージ、山手線の大型ボードなどをレギュラー的に実施している。
ゲーム業界は任天堂だけが好調なのではない。(株)スクウェア・エニックス・ホールディングスも2020年度は過去最高の売上となっており、「ドラゴンクエストウォーク」「ファイナルファンタジーXIV」などでOOH広告を実施している。
また、躍進する中国系ゲーム会社では、テンセントゲームスが「コード:ドラゴンブラッド」、ネットイースゲームズがバイオハザードとコラボした「ライフアフター」でOOH広告を実施。注目は(株)ヨースターで、2020年10月5日からJRトレインチャンネルでオリジナル番組提供型広告「CREATIVETRAIN」をレギュラー展開している。長年にわたって実施していたサッポロビールに代わって決定したもので、毎週各業界で活躍するクリエイターが登場し、クリエイターとしてインスピレーションを取り入れるための行為を広く“インストール”という言葉に置き換え、自身のクリエイティブに関する考え方やエピソードを語るインタビュー番組だ。放映しきれなかったエピソードをYouTubeの公式チャンネルでも配信している。ゲームアプリ「アズールレーン」や「アークナイツ」でもかなり出稿実績がある。また、(株) miHoYo(ミホヨ)は、2020年9月28日にリリースし、わずか6カ月で売上10億ドル(約1,100億円)を超えたオープンワールドアクションRPGの「原神」で実施している。

家にいて楽しめる定額制動画配信サービス

GEM Partners(株)の調査によると、2020年3月以降に定額制動画配信サービスを利用した人のうち、約半数はコロナ禍がきっかけで利用を開始し、そのうち65%以上は継続意向があったという。外出自粛が叫ばれた中で、家にいて楽しめる動画配信サービスのニーズは高まり急速に利用が拡大した。
中でも米動画配信大手のネットフリックスは2020年10 ?12月期決算で、売上高が前年同期比22%増の、66億4,444万ドル(約6,900億円)となり過去最高を更新。20年末時点の有料会員数は2億366万人に達した。日本でも2020年9月に会員数が500万人を突破した。2019年9月には300万人だったので、1年で200万人(約67%増)という急速な伸びとなっている。
2020年12月に配信が始まった「今際の国のアリス」は配信後28日間で、1,800万再生を達成し、同社の日本発のオリジナル実写作品で過去最多の視聴者数を記録した。OOH広告は、東京地区は渋谷の媒体を中心に実施している。
また、アマゾンジャパン(同)は、プライム・ビデオの広告を電車や駅のデジタルサイネージを中心に、(株)フジテレビジョンはFODの広告をJRトレインチャンネルを中心に実施している。

過去最大となった内食需要で伸びた食品関連業界

総務省の家計調査(2人以上世帯=平均2.95人)によると、消費支出額全体に占める家庭内調理(内食)の支出比率は2020年が21%となり、比較可能な2001年以降で過去最大となった。
その内食需要で伸びた会社の中で、丸美屋食品工業(株)は、売上構成比で約8割を占める基幹3群(ふりかけ・釜めしの素・中華)がいずれも好調でそろって過去最高売上を更新した。
OOH広告は、発売60年の「のりたま」、50年の「釜めしの素」、50年を迎える「麻婆豆腐の素」の3商品の周年を記念し、京浜急行電鉄にしかない広告貸切電車を実施した。この車両は「HAPPYになる電車」をコンセプトとした、黄色い車体の「KEIKYU YELLOWHAPPY TRAIN」と呼ばれるもので、広告主はこのコンセプトとも関連する「家族の団らんや楽しい食卓づくりのお手伝いをしたい」という思いも込めて実施した。食卓を明るく楽しくする「丸美屋ハッピートレイン」。コロナ禍情勢にふさわしいOOH展開だった。
食用油市場も好調で、2020年4月?12月では、金額ベースで対前年同期比9.6%増、容量ベースで同11%増だったという。市場を牽引しているのが、最大カテゴリーのオリーブオイルだが、MCTオイルが同83.8%増と伸び率では大きい。市場のボリュームとしてはまだ大きくないが、消化吸収がよく、エネルギーになりやすい中鎖脂肪酸は、スポーツをする人や健康や美容に気づかう人から支持されている。日清オイリオグループ(株)では中づり広告で実施している。
一方、飛躍的に伸びているフードデリバリー業界では、Uber Japan(株)や(株)出前館などが実施している。広告のターゲットはサービス利用者だけでなく、OOH広告が出されたエリアの飲食店や配達員(募集)など3つのターゲットへの訴求となっている。

新しい働き方で注目されたテレワーク関連ビジネス

在宅勤務が推奨される中、テレワーク関連ビジネスの広告主も注目だ。テレワークを意識したクリエイティブで話題になったのが、(株)SmartHRの広告。「テレワークが始まった。ハンコを押すために出社した。」「書類提出のために出社した。」のキャッチコピーは在宅勤務をしたくてもできない人の、心の声を代弁したかのような共感できる広告だった。公式サイトへのアクセス数、問い合わせ数ともに、テレビCM放映時に匹敵する数字となり、外出が6割減るなかでもSNSでの反響が大きく、「共感した」「ハッとした」「一本とられた」など1.5万リツイート、3万いいねを超えるツイートが複数発生し、情報が拡散された。
“「テレワーク、どうすれば…」。そんな企業に寄り添いたい。”としたNTTテクノクロス(株)は、手元端末にオフィスPCのデスクトップ画面を呼び出して操作するリモートアクセスサービスを行っている会社だ。利用者は、USBキーをPCに挿すだけでオフィスにいるのと同じように業務を行える。電車内のアナログ媒体を使って訴求した。

様々な種類のマスクの広告が登場

2021年2月に発表された(株)矢野経済研究所の家庭用衛生用品市場に関する調査によると、2020年度は前年度比190.3%の3,245億円の見込としていたが、この分野も大幅に伸長した。
代表格はマスクだが、様々な種類の広告が登場した。大王製紙(株)は「エリエールハイパーブロックマスクウイルス飛沫ブロック」、DR.C医薬(株)は「ハイドロ銀チタンマスク」、(株)医食同源ドットコムは「SPUN MASK(スパン マスク)」、(株)シンズは「耳らくリラマスク」、クロスプラス(株)は「パステルマスク」で実施。機能性やファッション性の高い商品が多かった。

ウイルス対策?高機能な空気清浄機、空間清浄機、感染検知

日本電機工業会(JEMA)の統計によると、空気清浄機の2020年1 ?11月の国内出荷台数は前年同期比34.3% 増の約239 万台。出荷金額は同45% 増の約687 億円とこの市場も拡大した。
エレクトロラックス・ジャパン(株)は「ピュアエーナイン」で「空気中のウイルス・細菌・カビを99.9% 除去」とした動画広告を山手線のまど上チャンネルで放映。(株)トゥーコネクトはシリコンバレーで開発された世界初の空気清浄機「エアドッグ」の広告で「ウイルスの6 分の1 の超微粒子を99.87% 除去可能」と中づり広告で訴求している。パナソニック(株)は空間除菌脱臭機「ジアイーノ」の広告を電車や駅のデジタルサイネージで訴求している。
最近では、2021年5月10日からスタートしたR 新宿駅東西自由通路の新媒体「新宿ウォール456」でカビや花粉、ニオイ、PM2.5、菌・ウイルス、アレル物質の働きを抑制し、肌や髪にうるおいを与える機能を持つ「ナノイーX」の訴求を行った。(株)高昇はウイルス除去モード搭載の空気清浄機「銀イオンプラズマ空気清浄機」や、非接触型体表温度瞬間検知サーモカメラ「エクスサーモ」の広告を実施している。
また、にしたんクリニック(医療法人社団直悠会)は、無自覚・無症状の人を対象に、自宅で唾液を自己採取しコロナ感染を検知するPCR 検査の広告を実施している。2021年5月5日時点で累計検査申込件数が100 万件に達したとのことだ。
このように、コロナ禍の厳しい状況でも需要があり拡大している市場はある。コロナ禍を逆にチャンスとして積極的に広告費を投下した企業もたくさんあることがわかった。DX化が進み、OOH広告のデジタル広告化が進むという論調もある中で、意外かと思われるかもしれないが、アナログなOOH媒体もよく使われているのが現状だ。そもそも時代と共に花形と言われた産業・企業は変わってきているものであるし、逆に急激に変わらないものもある。現状をこの目で見て冷静に俯瞰することも必要なのではないだろうか。

※このコラムは、「サイン&ディスプレイ2021年6月号」からの転載です。