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2026.03.31

「OOHは比較できない」を過去のものに。3月始動の「統一指標」が拓く、メディア設計の新基準

※本記事は、2026年3月9日に『MarkeZine』に掲載された同内容の記事を、媒体社の許可を得て転載したものです。
https://markezine.jp/article/detail/50339

 昨今、デジタル広告が主流となり、メディア接触を数値で語ることが前提となっている。一方、独自の進化を遂げてきた日本のOOH(Out-of-Home)市場は、統一された業界指標がなかったことから「プランニングの土俵に上げづらい」とも指摘されてきた。各社ごとに評価基準が異なる中で、他メディアと横並びで比較し、設計するための共通基盤が十分に整っていなかったためである。この現状を打破すべく、業界一丸となってグローバル基準に則った「国内統一メジャメント(測定指標)」の策定に動き出したのが「日本OOHメジャメント協会(JOAA)」だ。2026年3月、ついにその新指標の提供が開始され、OOHの接触を共通の物差しで捉え、事前に設計・比較できる基盤が整うことになる。本取材では、創設メンバーの一社であるオリコムの山本正博氏に、その意義と今後の展望を聞いた。

目次


ドメスティックな市場を「世界標準」へ。オリコムが描くOOHの未来地図

MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに、山本さんが現在取り組まれているミッションについてお聞かせください。

山本:OOHメディアプロデュース局のメディアアクティベーションディレクターとして、オリコムのOOH事業における価値創出やソリューション開発に取り組むかたわら、日本のOOH業界全体を「世界標準」の価値観へとアップデートし、変革を後押しすることをミッションとして活動しています。そのための活動の軸として、世界各国のWOO(World Out of Home Organization)主催のカンファレンスに参加し、そこで得たグローバルな「気づき」を日本へ持ち帰り、還元する役割を担っています。

株式会社オリコム OOHメディアプロデュース局 OOHメディア2部 メディアアクティベーションディレクター
山本 正博氏

 オリコムは、OOH事業に携わっておよそ100年という長い歴史を持ち、古くは交通広告を事業化したという経緯があります。また、過去50年以上にわたって、人流を測る「サーキュレーション」データを発行し続けてきた実績もあります。そうした知見の蓄積がある一方で、日本のOOH市場は、ある種「ドメスティックな進化」を遂げてきた側面も否めません。

 しかし今、広告主の方々の価値観は、アカウンタビリティ(説明責任)を求める「世界標準」へと向かっています。このギャップを埋め、日本のOOH市場にもグローバル基準に則った「国内統一メジャメント」や評価基準を落とし込んでいく。それが私の役割だと考えています。

世界では常識のROI計測。日本市場を阻んでいた「業界構造」の壁

MZ:グローバルにおけるOOHの最前線は、日本市場と比較してどのような違いがあるのでしょうか?

山本:グローバルでは、OOHの接触をインプレッションベースで標準化し、他メディアと同じ土俵で設計・比較することが一般的になっています。ヨーロッパやオーストラリアなどでは、統一メジャメントの整備が進み、OOHはマーケティングプランの中で自然に組み込まれる存在となっています。

 一方、日本では「共通指標の不在」が、横並びでの比較や統合設計を難しくしてきました。

MZ:なぜ日本では、グローバルのような「共通指標」が作られてこなかったのでしょうか?

山本:大きな要因として、古くからの「枠売り」という商習慣が残っていたことが挙げられます。デジタルサイネージ(DOOH)が登場し、プログラマティックな取引が一部で始まってもなお、「場所とモノ」を売買する「一物一価」の感覚が根強かったのです。

 また、業界構造の問題もありました。日本のOOH業界は、鉄道会社が主体の「交通広告」と、ビルオーナー等が主体の「屋外広告」などに分かれており、いわば「縦割り」の状態でした。OOHという同じジャンルでありながら、業界を横断して価値を議論する場がなかったことも、指標の整備が遅れた一因だと言えます。

業界の縦割りを打破した「OOH Tokyo Conference」開催の舞台裏

MZ:そうした縦割りの壁を壊すきっかけとなったのが、2025年2月に日本で初めて開催された「OOH Tokyo Conference 2025 with WOO」ですね。オリコムが事務局を務められたと伺いましたが、開催の経緯をお聞かせください。

山本:私自身、海外のWOOに参加する中で、日本から参加していた、普段は競合関係にある広告会社や、交通広告や屋外広告・ビジョンなどのOOH事業者などの方々と顔を合わせる機会が増えていました。そこで「日本でも業界横断的にOOHを語る場が必要ではないか」という想いが共有されるようになったのが出発点です。

 日本のOOH市場は世界第3位の規模を誇りますが、変わっていくためには、WOOというグローバルの潮流を味方につけて、海外の価値観を取り入れることが有効だと考えました。そこでWOO側に「日本のポテンシャルと、オリコムが間に入る意義」を伝え、共催(with WOO)という形での開催にこぎつけました。

「OOH Tokyo Conference 2025 with WOO」開催の様子

MZ:競合各社を巻き込んでの開催には、ご苦労もあったのではないでしょうか?

山本:準備期間が1ヵ月半しかなかったので、社内的にも承認を得るのが大変でしたが(笑)、各社のキーパーソンと直接対話を重ねながら、開催の意義を共有していきました。

 ただ、タイミングとして「業界を変えなければならない」という気運が高まっていたのは確かです。既にメジャメントに関するプロジェクトも水面下で動き出しており、課題感が共有されていたため、多くの企業から賛同を得ることができました。

 結果として、企業の垣根を越えた対話が生まれ、メジャメントという「共通の物差し」を巡る議論が一気に加速しました。

「日本OOHメジャメント協会」設立とアカウンタビリティへの回答

MZ:その流れを受け、2025年9月には「一般社団法人 日本OOHメジャメント協会(JOAA)」が設立されました。この組織が設立された目的と、オリコムが創設メンバーとして参画された意図を教えてください。

山本:最大のきっかけは、コロナ禍でした。街から人が消えているのに、OOHの価格は変わらない。これに対し、広告主様から「本当に見られているのか?」「なぜ価格が下がらないのか?」という厳しい声をいただきました。

 携帯電話キャリアなどの基地局位置統計データによってリアルタイムの人流が見えるようになったことで、従来のカウンター調査や改札データに基づいたサーキュレーションデータとのギャップが露呈してしまったのです。

 広告主様へのアカウンタビリティを果たすためには、納得感のある新たな指標が不可欠です。JOAAは、OOHの価値を取り戻し、V字回復させるための「答え」として設立されました。

MZ:競合も名を連ねていますが、どのように合意形成を図っていったのでしょうか?

山本:まずは競争よりも「協調領域」として市場全体のパイを広げようという合意がありました。WOOでは、OOHのシェアが世界的に広告費全体の約5%前後で頭打ちになりやすい構造的な課題を「5%シンドローム」と呼ぶことがあります。これは成熟の証ではなく、むしろ成長を阻む“見えない壁”とも言えるものです。

 日本は現在約6%で推移していますが、多くの国で5%前後が一つの天井となってきた一方で、メジャメントを導入した市場では、その壁を越え、7%、さらには10%へとシェアを伸ばしている事例も出てきています。つまり、シェア拡大の分岐点は、他メディアと同じ土俵で比較・説明できる環境が整っているかどうかにあると考えています。

 共通の物差しを持つことが、日本のOOH市場を次の成長フェーズへ押し上げる鍵になるという確信が各社の協力体制を支えています。

いよいよ3月に提供開始。「新指標」でプランニングはどう変わる?

MZ:そしていよいよ、2026年3月から「OOH広告メジャメントデータ」の提供が開始されます。これによって、具体的にプランニングや効果検証はどう変わるのでしょうか?

山本:今回の取り組みは、「実装の始まり」という位置づけで、一部の媒体から順次、新たな指標での評価が可能になります。すべてを一度に変えるものではありませんが、OOHの考え方を前に進める大きな一歩です。

 これまでOOHは「どれだけの人がその場所を通ったか(サーキュレーション:通行量)」で評価されてきました。しかし実際には、通った人すべてが広告を見ているわけではありません。そこで導入されるのが「VAC」という指標です。人の流れのデータに視認のしやすさを掛け合わせ、「通った人数」ではなく「実際に見られたと考えられる人数」を推計します。さらに性別や年代別の接触人数も把握できるようになります。

 これにより、OOH同士の比較だけでなく、デジタルやテレビと並べた統合的なプランニングも可能になります。OOHは“通行量のメディア”から“オーディエンスのメディア”へと定義が変わろうとしています。

MZ:広告主にとっての実利的なメリットはなんでしょうか?

山本:もっとも大きな変化は、上司や経営層へのアカウンタビリティが果たせるようになる点です。従来は「渋谷だから人が多いはず」という感覚値で選定理由を説明せざるを得ませんでしたが、これからは「ターゲットである40代男性へのリーチ効率が良いから、渋谷だけでなく新橋と立川も組み合わせる」といった、データに基づいた論理的な説明が可能になります。

 また、シーズナリティ(季節変動)も可視化されるため、年末年始や特定イベント時の人流・視認状況に基づいた精緻な出稿計画も立てられるようになります。

データ×セレンディピティで描く、OOHの未来

MZ:最後に、今後の展望と、マーケターへのメッセージをお願いします。

山本:一連の活動を通じて、オリコムの企業理念である「『良い関係』の創造」を、OOH市場全体で体現していきたいと考えています。メジャメントという共通言語を通じて、媒体社、広告会社、そして広告主の皆様との信頼関係を再構築し、市場を活性化させることが目標です。

 2026年は、日本のOOHが統合プランニングの中で戦略的に設計できるメディアへと進化する転換点になります。デジタル広告のリーチが飽和しつつある中で、OOHが持つ「セレンディピティ(偶然の出会い)」の価値は改めて注目されています。これまで直感や経験に委ねられる部分が大きかったその接触が、これからはデータに基づいて可視化され、戦略的に位置づけられるようになります。「データ×セレンディピティ」という新たなフェーズに入ったOOHを、統合マーケティングの選択肢として、ぜひ積極的にご活用いただきたいと思います。