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2025.12.08

【インタビュー】クリエイターにとってのDEIとは -より本質を捉えた表現を目指して-

コンプライアンスが重視されつつある昨今、広告制作に携わるクリエイターはDEIをどのように捉え、どう向き合っていくべきなのでしょうか。DEIコミュニケーションラボにて、クリエイティブディレクターを務める土田琢磨さんにお話を伺いました。

土田 琢磨(つちだ たくま)

  • プロフィール
    新卒でオリコムに入社し、コピーライターとしてキャリアをスタート。その後、国内広告会社やマーケティング会社にて広告クリエイティブのディレクション・コピーライティング・CMプランニングを担当。部門責任者や部門立ち上げを経験したのち、現在はオリコムにてクリエイティブディレクターとして制作ディレクションを担いながら、「DEIコミュニケーションラボ」のメンバーとして活動に取り組む。

目次

メディアを取り巻くジェンダー表現の状況

―昨今のメディアにおけるジェンダー表現の状況をどのようにご覧になっていますか。

土田

コンプライアンスという言葉は、今や一般の方々にも広く知られていますよね。広告表現に関しても、以前と比べて世の中の関心がいっそう高くなっていると感じています。

世の中には、広告をはじめさまざまなクリエイティブが存在します。私自身、一人の生活者として、また制作者として、「これはもしかしたら偏った視点に立った表現なのでは?」「ジェンダー表現として問題があるのでは?」といったことを考えることが増えました。

―クリエイティブディレクターの視点と、一人の生活者としての視点はつながっているということでしょうか。

土田

そうですね。私たちは広告の制作を担う立場にあると同時に生活者でもあるので、やはり生活者としての視点がまずベースにあります。一人の生活者としてどう感じるかは、メッセージを届ける側としてもっておくべき重要な視点と捉えています。

クリエイターがジェンダー表現に関する問題に直面する場面

―クリエイターにとって、ジェンダー表現に関する問題に直面するのはどのような場面でしょうか。

土田

5~10年前ならとくに問題を感じなかったような表現でも、提案時にメンバーやクライアントから「この表現は大丈夫でしょうか?」といった確認が入るケースが増えました。たとえば、料理が苦手な男性が女性に頼んで作ってもらう、という場面設定があったとしますよね。この設定に問題はないのか? といった懸念の声が上がるようなケースです。性別役割の固定化を助長しかねない表現なのではないか、といった指摘が入ることがあります。

―ジェンダー表現に関して、懸念されがちな表現にはどのような傾向がありますか。

土田

「このような表現が問題視されやすい」とは一概に言えないところがあります。一般的に、自分自身の属性とは異なる人の視点はイメージしにくい傾向があるように感じますね。とくにマジョリティに属している人は、マイノリティに属している人(※)のことをなかなか自分事として捉えにくいのかもしれません。そのため、自分の中で感じ方や解釈をアップデートできていない人ほど、意識していないところでバイアスがかかってしまうリスクが高いように感じます。

ただ、日常会話の中で「それは偏見ですよ」とか「差別的な見方ではないですか?」といったことはあまり人から直接指摘してもらえませんよね。さりげなく指摘されても大して気に留めなかったり、聞き流してしまったりすることも少なくないように思います。結果として、認識や感覚のアップデートがなかなか促されないというスパイラルに陥りやすいのではないでしょうか。

※ここでのマジョリティ・マイノリティは、人口の大小のほか、社会的な力の得やすさの大小を表す。

「自社には関係がない」と捉えるリスク

―DEIスコアによって広告表現の違和感を可視化するDEI Quick Checker™は、どういった企業からお問い合わせをいただくケースが多いのでしょうか。

土田

仕事や家事のシーンが表現として描かれやすい企業からの問い合わせが多いですね。一例として、消費財や食料品、料理関連の商材を扱っている事業者様などからお問い合わせをいただいています。

一方で、「うちが扱っている商品はジェンダー表現とはあまり関係がないのでは?」と捉えている企業も少なくないのが実情です。提供している商品やサービスに男性向け・女性向けといった区別がなければ、自社とは無縁なことと捉えやすいのかもしれません。ところが、性別に直接関係がないはずの商品を扱っている企業の広告が、実際に炎上してしまったケースも割と多いのです。自社には関係がないと捉えていること自体にリスクがあるのではないかと感じています。

―現状、自社にはあまり関係がないと捉えている事業者様に対して、どのようにその重要性をお伝えしているのでしょうか。

土田

広告制作の現場で「これなら大丈夫だ」と担当者が判断しても、他のメンバーから見ると「この表現には問題があるのでは?」と感じることはありますよね。見る人によって受け取り方や感じ方にはかなり差がありますから、「ジェンダー表現として適切かどうか」を担当者レベルで判断するのは容易なことではありません。そもそも、「うちには関係がない」と認識していること自体が見過ごされている可能性も十分に考えられるのです。そういった実態についてお伝えするようにしています。

―DEI Quick Checker™を活用することで、具体的にどのような効果が期待できますか。

土田

DEI Quick Checker™の大きな特長は、100を基準とするDEIスコアが算出される点です。目安として、スコアが90点未満だった場合は「改善の余地あり」と数値から判断できます。特別なスキルや経験がなくても、広告表現として問題が潜んでいないか客観的な指標にもとづいて判断できるのです。

実際、過去にこんなことがありました。制作を予定している複数の記事タイトルをDEI Quick Checker™に読み込ませたところ、そのうちの1記事だけDEIスコアの基準に引っかかるものがあったのです。DEI Quick Checker™のサービスではスコアの算出に留まらず、DEIコミュニケーションに長けたアナリストが「DEIの観点においてこのような表現が考えられます」といった提案もします。提示された改善案を記事タイトルに反映したところ、DEIスコアが有意に上昇しました。担当者が「なんとなくこっちの表現のほうが良さそうだ」と感覚で判断するのではなく、数値から改善効果を確認できることは大きなメリットといえるでしょう。

クリエイティブとジェンダー表現のバランス

―効果的な訴求につながるクリエイティブと、ジェンダー表現への配慮のバランスをどのように保っていけばよいのでしょうか。

土田

広告制作の現場では、「問題がありそう」「もしかしたら批判されるリスクが高そうだ」と感じる表現に寄せていくうちに当たり障りのない表現に落ち着いてしまう、といったことが起こりがちです。しかし、表現を変えたことによってメッセージがぼやけてしまうとは限りません。むしろ、より良いメッセージになるようブラッシュアップしていくことも可能です。

たとえば、「女性の自立」という表現があるとします。この表現は、見方によっては「女性は自立していないことが前提になっている」と受け取られる可能性がありますよね。では、「一人で考えすぎない」という表現にしたらどうでしょうか。女性だけが悩んでいるとは限らない、という考え方が根底にあるため、いっそう多様な生活者に届きやすい普遍的なメッセージになるでしょう。むしろ、「一人で考えすぎてしまうことをサポートする」このメッセージこそが本来伝えたかったものだったのかもしれないのです。

このように、メッセージの背景や本来伝えたかったことを立ち止まってじっくりと考えてみると、本当に言いたかったことによりいっそう近づけるのではないでしょうか。

―昨今はコンプライアンスによって表現の幅が制約されてしまう、といった声が聞かれますが、この点についてはどのようにお考えですか。

土田

実は、ジェンダー表現に配慮が必要な状況は今に始まったことではありません。昔はマジョリティ側の論理がまかり通っていたため、マイノリティの方々が声を上げにくかったのです。実際には、偏ったものの見方や捉え方をするのは昔から良いことではありませんでした。はっきりと口には出さなくても、薄々そう感じていた方々も大勢いるはずです。

本来、ジェンダー表現に配慮することと、伝えたいメッセージを伝えることは別の話ですよね。ですから、コンプライアンスによって表現が制約されているというより、良くないものは良くないとはっきりと認識されるようになった、と言い表すほうが正確かもしれません。

―現在ご活躍中のクリエイターの皆さんや制作担当者の方々にお伝えしたいことはありますか?

土田

表現が難しい時代になったと感じられる方が多いかもしれませんが、表現を突き詰めて、より良いメッセージに磨き上げられる余地はまだまだたくさん残されています。不安や懸念を感じることなく、堂々と世の中に向けて公開できるのであれば、表現する側にとっても良いことでしょう。

DEIスコアという指標によりプロジェクトメンバー間で議論し合うきっかけを作り、メンバーの理解のもと世の中に発信される安心が生まれるため、DEI Quick Checker™はクリエイターの表現を後押しして堂々と提案できるためのツールになると考えています。DEI Quick Checker™は表現を狭めるツールではなく、よりクリエイティビティを高めていくためのツールなのです。

広告表現が意図しないところで批判されたり、炎上に発展したりすると、「そんなつもりじゃなかった」と感じることも多いでしょう。制作側の意図とは異なる捉え方をされてしまうのは、制作者・生活者の双方にとって良くないことです。そういったすれ違いがなくなるように、DEI Quick Checker™を活用してより本質を捉えた表現を追求していただければと考えています。

多様性・公平性・包括性に関する広告表現でお悩みの方

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