広告は多くの生活者の目にふれることから、見る人を傷つけない・不快な思いをさせない配慮が求められます。ジェンダー表現もそのうちの1つです。
この記事では、ジェンダー表現を考えるうえで注意が必要な広告表現の例や、気を付けるべきポイントをまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
目次
- ジェンダー表現において、注意が必要な広告表現のパターンとは
- 一般的に講じられている対策と生活者から見た実感の差
- ジェンダーに配慮された広告表現を作るための3つのポイント
- 真に配慮された広告表現を実現するために
ジェンダー表現において、注意が必要な広告表現のパターンとは

ジェンダーバイアスとは、性別に対して抱かれがちな思い込みや先入観のことを指します。ここでの「思い込み」とは、社会や文化の中で長年にわたり形成・共有されてきた「男性はこうあるべき」「女性はこう振る舞うべき」といった性別に基づく固定的な役割意識を意味します。広告制作においても、無意識のうちにジェンダーバイアスに根差した表現になっているケースは少なくありません。ここでは、必ずしも表現として避けるべきではありませんが、注意が必要なパターンを3つ紹介します。
パターン1:役割と性別の紐づけ
ゲッティイメージズジャパン株式会社が2022年に発表した調査結果によれば、同社が運営するストックフォトサイト「iStock」において、子育てをしている女性のビジュアルは男性のビジュアルよりも2倍多く選ばれていました。また、在宅勤務と子育てに関しても、男性よりも女性のビジュアルが51%多く登場していたことがわかっています。家事や子育てと女性を結び付けて捉えているユーザーが、依然として少なくない傾向が見て取れます。
たとえば、在宅勤務の一幕を想像する際、無意識のうちに「子育てをしながら仕事をこなす女性」と「仕事に集中する男性」をイメージしていないでしょうか。その状況自体が悪いわけではありませんが、その想像にはジェンダーバイアスが働いているかもしれないと、自覚的になる必要があります。安易にその表現を使うことで、仕事をするのは男性、子育てをするのは女性というイメージを与え、役割の固定化を助長しかねない可能性があります。
パターン2:職業と性別の紐づけ
実際には性別を問わず活躍している職業であっても、イメージにとらわれた表現になっていることがあります。たとえば、医師と看護師が登場する画像や映像を制作する場合、医師には男性、看護師には女性を起用するものと無意識のうちに思い込んでいないでしょうか。たとえ決め付けているつもりがなくても、記号として伝わりやすいという理由で医師は男性、看護師は女性と表現しているケースは少なくありません。こうした積み重ねが、性役割の固定化を助長している可能性もあるのです。
また、女性の医師をあえて「女医」と呼んだり、「男性看護師」といった呼び方をしたりすることは、ステレオタイプに根差した表現と捉えられる可能性があります。
パターン3:アイキャッチとしての若い女性起用
日本では広告のアイキャッチとして、若い女性を起用しているケースが多く見られます。しかし、広告の内容と人物との関連が薄い場合、単に目を引くためだけに女性を起用しているように受け取られてしまいかねません。見方によっては女性の外見のみに注目させており、内面や意思を軽視しているように映る可能性があるため、広告に込めたメッセージや訴求している商材、背景情報などと関わりのある人物表現になっているかを考える必要があります。
一般的に講じられている対策と生活者から見た実感の差

オリコムの調査によれば、広告の制作に携わるマーケターの約半数が、ジェンダー表現への配慮として「何かしら具体的に対策をしている」と答えています。しかし、一般的に講じられている対策と生活者の視点には差異が生じがちです。なぜこのような状況に陥りやすいのか、その原因を探っていきましょう。
表面的・形式的な配慮は見抜かれている
一般的に講じられている対策として、次のようなケースがあります。
例:女性が子育て家事をしている画像 → 男性が家事をしている画像に差し替える
女性だけが登場していることが問題点と捉えれば、男性が家事をしている姿を描いた表現に差し替えるのは合理的な対策のように思えます。一方で、「実際は女性がやっていることが多くリアルだが、それでは批判されかねないため男性も起用する」といった考え方をしていた場合、生活者の目には表面的・形式的な「配慮」と映ってしまう可能性も否定できません。
生活者の広告を視る目線も深化
実際、オリコムが生活者にヒアリングを実施したところ、先に挙げたような広告表現を目にした際に「わざとらしく男性に家事をさせている」といった意見も寄せられました。社会のジェンダー意識の向上とともに、生活者の広告を見る目線も深化しているからこそ、広告におけるジェンダー表現への配慮は表面的・形式的な対策ではなく、より本質的に偏見や先入観を排除するための取り組みでなければなりません。
ジェンダーに配慮された広告表現を作るための3つのポイント

では、ジェンダーバイアスに対する表面的・形式的な対策にとどまらず、より本質的な対策を講じるにはどうすればよいのでしょうか。広告制作時に意識しておきたい3つのポイントを紹介します。
ポイント1:登場人物の内面が感じられるか
広告に登場する人物の内面が感じられるかどうかは、人物をアイキャッチのための道具・装飾品として消費していないか(=過度に客体化をしていないか)を判断する上で非常に重要なポイントの1つです。アイキャッチにとどまっている場合は、登場人物の内面を軽視しているようにも捉えられかねません。性的な対象として描写されていないか、といった点も含めて慎重に検証する必要があります。
なお、英国広告基準協会(ASA)では、2019年より性別に基づく有害なステレオタイプの広告を規制対象としています。従来は許容・黙認されていた表現であっても、近年ではより厳しい目が向けられていることを認識しておかなければなりません。
ポイント2:現状の追認に終始していないか
広告主が見落としやすい視点のひとつに、「現状の追認に終始してしまうこと」があります。生活者の実態に寄り添い、エールを送っているつもりでも、その表現が、結果的に性役割の固定化を助長してしまっているケースが少なくありません。
たとえば、「いつも子育てお疲れさま」といったキャッチコピーとともに、働く女性の姿を描いた広告があるとします。一見すると、子育てと仕事を両立する女性たちへの感謝や応援の気持ちが込められているように見えます。実際、それを誇りや喜びと感じている人も多くいるでしょう。
しかし、その広告のなかに男性の育児参加がまったく描かれていなかったとすれば「子育て=女性の役割」といった暗黙の前提を肯定してしまっていることになりかねません。応援のつもりが、気づかぬうちに役割を押しつけてしまっている可能性があるのです。子育てをめぐる感情は単純ではなく、そこに喜びがある一方で、「なぜ自分ばかりが担うのか」という疑問や負担感も、確かに存在しています。そうした複雑な心情を汲み取らずに、「よくやってるね」と言葉をかけることは、善意のつもりでも「女性が当然子育てを担うべき」というプレッシャーを女性に与えている可能性があります。現状の姿を称えるだけではなく、本来はどうあるべきなのかを深く考える必要があります。
ポイント3:広告表現の検証に客観性はあるか
広告制作関係者の作り手としての思いや背景情報に、そもそも無自覚な先入観や刷り込み(アンコンシャスバイアス)が混在している可能性もある点に注意が必要です。
アンコンシャスバイアスは無自覚であるからこそ気づきにくく、制作者側の目視によるチェックや担当者の感覚にもとづく判断には限界があります。制作に直接携わるメンバーが見落としていた視点に気づくためにも、客観的な指標を取り入れたチェック体制を確立できるかどうかがポイントとなるでしょう。
真に配慮された広告表現を実現するために
今回解説してきたとおり、ジェンダーバイアスには私たちの意識の奥深くにあるステレオタイプな感覚が関わっています。表層的なテクニックや、パターン化された対策によって解消できるものではありません。だからこそ、今の生活者と向き合い、その表現を選ぶ意味を問い直すことが重要です。
オリコムでは、DEI・ジェンダーに関する評価測定サービス DEI Quick Checker™を提供しています。好き・嫌い/良い・悪いといった表層の奥にある人間の感情と表現評価の因果関係を研究し、独自の指標「DEIスコア」を確立。基準値(100)を設けることにより、生活者が広告を目にした際の感じ方・映り方を客観的に把握できる点が特長です。また、AIによって算出されたDEIスコアを元に、企画の意図を加味してアナリストが改善の方向性までを提言します。広告表現の検証にとどまらず、具体的な改善策も含めて提案できる点が大きな強みです。DEIやジェンダーが本質的な意味で配慮された広告表現を実現したい事業者様は、ぜひDEI Quick Checker™の導入をご検討ください。
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