近年、企業の運営方針として「DEI経営」の推進が注目されつつあります。広告表現に関しても制作上の独立した課題として捉えるのでなく、DEI経営の視点に立って考えていくことが重要です。
この記事では、DEI経営が注目されている背景や「ダイバーシティ経営」との違いについてわかりやすく解説しています。DEI経営を実践している企業の事例や、DEI経営の視点に立った広告表現の注意点も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
- DEI経営とは
- DEI経営が注目されている背景
- DEI経営の実践事例
- DEI経営を達成するためには、広告表現からのアプローチも重要
- DEI経営にのっとった広告表現を目指すには
- “客観性”の担保こそが、DEI経営における広告制作のカギ
DEI経営とは
はじめに、DEI経営とはどのような考え方に基づく経営方針のことを指すのか、基本事項を確認しておきましょう。
そもそもDEIとは
DEIとは、多様性(Diversity)・公平性(Equity)・包括性(Inclusion)の頭文字を取った言葉です。
- 多様性(Diversity):人種や年齢、性別を問わず多種多様な人材が尊重されている状態
- 公平性(Equity):あらゆる人々に機会が公平に保証されている状態
- 包括性(Inclusion):多様な人材が歓迎される環境が整っている状態
日本においては、経済産業省が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(令和4年9月)にて、ステークホルダーに対して人権尊重に関する責任を果たすよう企業に要請しています。そのことからも分かる通り、DEI経営の実現は、あらゆる企業に求められている取り組みです。
ダイバーシティ経営(※)との違い
ダイバーシティ経営とは、企業が多様な人材を集め、競争力を高める試みのことです。主に企業側の視点に立ち、多様性を「受容」するという考え方にもとづいています。
一方、DEI経営は多様な人材を受け入れるだけでなく、公平に機会を提供し、多様な人材が歓迎される環境を整えることも含んでいます。組織における多様性の実現を、より本質的かつ効果的に推進するための試みがDEI経営です。
※「ダイバーシティ経営」という言葉は、狭義では「多様性」を高めることで企業の競争力強化を目指すものですが、広義ではDE&Iの考え方を包含している場合もあることにご留意ください。
DEI経営が注目されている背景

DEI経営が注目を集めている背景には、次の3つの要素が関わっています。
生活者ニーズの多様化
1つめの要素は、生活者のニーズが多様化していることです。たとえば「30代男性」であっても、価値観や求めているプロダクト/サービスは人によって大きく異なるように、年齢や性別などにもとづく従来のプロファイルではニーズをくみ取れなくなりつつあります。多様な顧客ニーズに対応するマーケティング施策を講じるには、企業側にも多様な視点が求められているのが実情です。DEI経営は、多様な視点を備えた組織へと進化していくために必要な取り組みの一環といえます。
ビジネス環境のグローバル化
2つめの要素として、ビジネス環境のグローバル化が挙げられます。そのため、一緒に働くメンバーが日本人とは限らなかったり、取引先が海外の企業であったりすることも決して珍しいことではなくなりました。従来の日本型組織に多く見られた慣習にとらわれず、多様な文化や商習慣に対応していく必要があります。グローバル化するビジネス環境への適応が求められていることも、DEI経営に注目が集まる重要な理由です。
労働力不足の深刻化
3つめの要素は、労働力不足の深刻化です。人々の価値観が多様化し、さまざまなワークスタイルを自らの意思で選ぶ人が増えています。一社で定年まで勤めるのが当たり前のことではなくなり、多様な働き方やキャリア形成を望む人が少なくありません。人材の流動化が進み、転職・副業・独立といった複数の選択肢がある中、優秀な人材を確保するには多様な人材が活躍しやすい環境を整えていく必要があるでしょう。このように、多様な価値観に対応し、人材確保を強化する必要性が高まっていることも、DEI経営が注目されている大きな理由の1つです。
DEI経営の実践事例

ここからは、DEI経営を実践している企業の事例を紹介します。具体的にどのような取り組みをしているのか、3社の実践事例を見ていきましょう。
性別を問わず活躍できる環境の整備|積水ハウス株式会社
積水ハウスではDEIを経営戦略として位置づけ、性別を問わず活躍できる環境の整備に取り組んでいます。男性社会の色が強い業界に属する同社では、ユニフォームやトイレの改善をはじめ、女性技術者や監督者の活躍推進委員会を立ち上げるなど、女性も働きやすい環境を現場に取り入れることからはじめました。さらに、女性管理職の育成プログラムを開設し、実務を通じたマネジメントスキルの学習機会を提供しています。経営層がDEIの重要性を認識し、全社的な取り組みとして具体的な施策を推進している点が特徴です。
外国人が働きやすい環境づくり|カシオ計算機株式会社
カシオ計算機株式会社では、外国人がもつ多様なバックグラウンドを尊重する働きやすい環境を整えています。従業員の信仰を尊重し、お祈り部屋を設けたり、母国における重要な行事への参加を促したりしています。さらに社員食堂では、使用している食材をメニューに詳しく表示することで、信仰上口にしてはならないとされている食材を誤って食べてしまうことのないようにしました。キャリア形成の面でも、高い専門性を備えた外国人従業員が着実にキャリアアップできるよう職種別採用を取り入れています。
障がい者が意欲的に働ける子会社の設立|コクヨ株式会社
コクヨ株式会社では障がい者を積極的に採用するとともに、各自が能力を発揮して意欲的に働けるよう環境整備に注力しています。同社では、従来から特例子会社にて障がい者雇用を推進してきました。一方で、障がい者雇用率は高い水準だったものの、雇用した人材を生かし切れていない点が課題となっていました。そこで、付加価値の高い業務を子会社に割り当て、ノウハウをもつ社員や商品開発に携わっている社員を出向させることで、信頼し合えるパートナー企業へと成長。DEIの視点を取り入れたことで、数字上の目標達成に留まらず誰もが活躍できる組織へと進化を遂げた事例です。
DEI経営を達成するためには、広告表現からのアプローチも重要
先述の事例も含め、DEI経営と聞くと、人材育成や人材活躍といった組織運営の文脈で捉えられる傾向があります。しかしながら、企業にとってのステークホルダーには取引先や従業員だけでなく、顧客も含まれている点を見落とすべきではないでしょう。そして、多くの生活者の目にふれる広告表現も、ステークホルダーに関わる課題の1つです。広告コミュニケーションは生活者と企業を結ぶ手段であるからこそ、生活者が目にする表現に関しても人権尊重責任を全うする必要があります。
たとえば、積水ハウスは人権に関する取り組みを「人権レポート」として公開しており、この中で広告表現を人権課題の1つとしてあげています。同社の広告は長年にわたり「家を所有すること」が前提の表現となっていましたが、現在では「帰りたい」と感じる場所があることや、暮らしの中で残る記憶に焦点を当てた表現へと刷新されています。多様な生活者に共感してもらえるメッセージを追求した結果、より本質的な表現にたどり着いた好例です。この事例のように、特定の層に向けた広告ではなく、多様な生活者の存在を念頭に置いた表現を追求することもDEI経営においては重要です。
DEI経営にのっとった広告表現を目指すには

では、DEI経営にのっとった広告表現にするためには、どのような点を意識する必要があるのでしょうか。DEIへの対応に唯一の正解はありませんが、広告表現にDEIの視点を取り入れる際に意識をしたい3つのポイントを紹介します。
「平均」や「普通」を強調しない
たとえば「みんなが憧れる美しさへ」といった表現は、その美しさが“世の中の当たり前”や“全員が目指すべき姿”として捉えられるおそれがあります。また、Web広告などではアテンションを高めるために「○○cm」「○○kg」といった具体的な数値を提示し、行動を促す表現が使われることもありますが、こうした訴求は“あるべき姿”を固定化し、多様性を排除することにもつながりかねません。
ステレオタイプな表現を避ける
特定のイメージや印象にもとづいて、一人ひとりを決めつけるような表現が含まれていないかにも注意が必要です。たとえば、広告に登場する人物のうち眼鏡をかけている人は真面目でおとなしく、快活で社交的な人物は眼鏡をかけていない、といった表現になっていないでしょうか。こうした表現によって、本来であれば多様な個性や価値観をもっているはずの人々を、特定の属性や特徴によって「型」に押し込めることにもなりかねません。
“つもり”DEIに気を付ける
形式的・表層的な対応は、生活者に見抜かれる可能性があることにも注意が必要です。家事の役割分担は昨今関心の高いテーマですが、「男性が家事をしていれば大丈夫」という発想で表現を描いてしまうと、炎上には至らずとも「わざとらしい」といった違和感をもたれるおそれがあります。
DEIに配慮した表現づくりで重要なのは、登場する人物のバリエーションそのものではなく、広告メッセージの本質とそこに描かれる人物像との整合性です。モデルを変えればよいという話ではなく、登場人物が一人であっても、その人が“どういう意思でその行為をしているのか”が伝わる表現であれば、共感を生むことができます。家事をしている母親の姿も義務感からではなく、そこに喜びや誇りを見出しているように描かれていれば、決して否定されるものではありません。重要なのは、性別といったその人自身の表層的な属性ではなく、その人の内面や意志がきちんと表現の中に描かれているかどうかです。
“客観性”の担保こそが、DEI経営における広告制作のカギ
しかしながら、どれだけ制作側がDEIに対する意識を高めても、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)は完全には消えず、主観だけで広告表現に配慮するには限界があります。その結果、意図せず表現に影響を与えてしまうこともあり、実際に多くの企業で起きる炎上も「そんなつもりはなかった」というケースが少なくありません。
では、広告表現におけるDEIに取り組むには具体的にどうすればよいのでしょうか。そこで注目したいのが、客観的な視点を取り入れることです。人間の感覚や経験則にもとづくバイアスを補い、広告表現の課題や改善点を見極めるためには、ツールを活用するのが有効です。
オリコムでは、DEI・ジェンダーに関する評価測定サービス DEI Quick Checker™を提供しています。好き・嫌い/良い・悪いといった表層の奥にある人間の感情と表現評価の因果関係を研究し、独自の指標「DEIスコア」を確立。基準値(100)を設けることにより、生活者が広告を目にした際の感じ方・映り方を客観的に把握できる点が特長です。また、AIによって算出されたDEIスコアを元に、企画の意図を加味してアナリストが改善の方向性までを提言します。広告表現の検証にとどまらず、具体的な改善策も含めて提案できる点が大きな強みです。DEI経営の実現に向けた取り組みの1つとして、DEI Quick Checker™を活用してみてはいかがでしょうか。
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