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2025.12.08

表現の「違和感」を放置しない|ブランド価値を左右するDEI視点の取り入れ方

近年、広告やSNS上で企業が発信したメッセージをめぐって「炎上」に発展するケースが少なからず見られます。炎上対策は企業やブランドの信頼毀損を避ける上で重要な取り組みですが、どのような対策を講じればよいのか迷っている事業者様も多いのではないでしょうか。

この記事では、広告やSNS運用における炎上対策の必要性や炎上リスクを抱えた表現の例、表現への「違和感」が放置されやすい原因について解説しています。ブランド価値を守る上で欠かせないDEI(多様性・公平性・包摂性)の視点について、一緒に考えていきましょう。

目次

広告やSNS運用における表現の「違和感」を放置しないことの重要性

まず、企業やブランドによる発信が炎上に発展した場合、対応に多くの時間と労力、そして費用を要することは想像に難くありません。では、炎上をしなければ問題ないといえるのでしょうか。実際には、炎上に至らなくとも、広告の表現が人々の意識や行動に影響を与えていることがわかっています。オリコムが行った調査では、炎上の有無にかかわらず、ジェンダー表現への配慮に欠けると感じる広告を目にしたことで、50%の人が意識や行動に変化があったと回答しました。具体的な変化として多かった回答は次の3点です。

  • 企業・ブランドへの好感度が下がった:37.9%
  • ジェンダー意識について調べた:21.7%
  • 今後の購入や利用を再検討した:20.2%
【ジェンダー表現への配慮に欠ける広告を見た際の意識・行動の変化】

出典:オリコム(調査時期:2024年2月 対象:18~69歳)

ブランド価値の観点から考えると、もはや「問題が顕在化していないから安心」とはいえず、表現に対して「違和感」を抱かせないことへ意識を向ける段階に移っていることがわかります。

生活者が表現への違和感を抱くポイントの例

では企業が発信した情報や表現のうち、生活者はどのような点に違和感を覚えているのでしょうか。同調査内でのコメントをいくつかご紹介します。

  • 男の人がわざとらしく家事をしている(40代女性)
  • 男はこうあるべきという姿で描かれていることが多い(30代男性)
  • 女性を広告のアイキャッチャーとして使っている(60代男性)

これまで表立って問題視されてこなかった表現はもちろんのこと、表面的・形式的な DEI対応さえも見抜き、違和感を抱く生活者がいることに注意が必要です。

炎上リスクを抱えた7タイプの表現

では、どのような表現が違和感、ひいては炎上につながりやすいのでしょうか。DEI(多様性・公平性・包摂性)の視点に立った際に、リスクを抱えている表現にはいくつかのパターンがあります。ここでは、そのうち7パターンの頭文字を取った「あなたと無事故」を紹介します。

【あなたと無事故】

あ:アクセシビリティ型
な:名ばかり型
た:単一視点型
と:特別視型
む:無意識偏見型
じ:十把一絡げ型
こ:言葉遣い型

ここでは理解しやすいよう7タイプに分類していますが、これらが炎上パターンのすべてを網羅しているわけではない点にご注意ください。

あ:アクセシビリティ型

すべての生活者にとって利用しやすいよう、十分に配慮されているとはいいがたいパターンです。

【例】Webサイトの表記

Webサイト上で「下の図のように……」と記載したものの、画像の内容を説明する代替テキストが設定されていなかった。

上記の例に関しては、障がいのある方々などが知りたい情報を十分に得られないおそれがあります。なお、2024年4月に改定された障害者差別解消法では、公的機関だけでなく民間事業者にもアクセシビリティを含む合理的配慮の提供を義務づけています。

な:名ばかり型

表面的には多様性を取り繕っているものの、実質的には多様性への理解や尊重が伴っていないパターンです。

【例】広告の登場人物

マネジメント層の集団を表現した画像が男性のみだったため、女性モデルを一人追加した。

この例では、「男性だけでは問題視されそうだ」という視点に偏っており、女性モデルを形式的に追加する対応にとどまっています。多様性に配慮しているというより、表面的に体裁だけを整えている状態といえるでしょう。

た:単一視点型

さまざまなものの見方や価値観があることが念頭に置かれておらず、特定の立場や属性の視点に立っているパターンです。

【例】成功イメージの表現

ツール導入後の成功イメージを表現する画像に、男性経営者のモデルのみ起用している。

上記の例では、「成功者のイメージ」と「男性的なリーダーシップ」が直接結び付けて表現されているように感じる人もいるでしょう。結果として、多様な成功の形やリーダーシップのあり方を排除しているかのように受け取られてしまいかねません。

と:特別視型

多様な個性や能力に目を向けず、特定の見方に押し込めてしまっているパターンです。

【例】障がい者の描き方

障がいを抱えながらもけなげに頑張る姿が感動的、といった取り上げ方になっている。

障がいのある方々にもさまざまな人がいます。個性も能力も人それぞれのはずですが、特定の見方だけに固定化されているように映る可能性があるでしょう。障がいに限らず、ごく一部の属性からその人全体を判断したり、決め付けたりする表現になっていないか留意する必要があります。

む:無意識偏見型

特定の性別役割や民族グループなどを強調したことによって、意図せず差別的なメッセージになってしまっているパターンです。

【例】生活者に寄り添うメッセージ

女性は家事、男性は仕事で大変な思いをしているという前提に立った表現になっている。

実際に上記のパターンに当てはまる人もいるかもしれませんが、反対に当てはまらない人もいるはずです。それぞれの役割が「性別」によって固定化されているかのような印象を与えかねない表現といえるでしょう。

じ:十把一絡げ型

特定の属性を軸に、該当する人々を一括りにしてとらえているパターンです。

【例】属性と性格・特徴を結び付けたメッセージ

都内在住の30代女性はアクティブ、という前提でメッセージが構成されている。

たとえ「都内在住」「30代女性」という条件に当てはまっていたとしても、実際には多様な価値観やライフスタイルが存在するはずです。一部のイメージに引きずられて、全員が同質であるかのように表現してしまうと、「決め付けられてしまった」と感じる人が出てくるかもしれません。

こ:言葉遣い型

特定の属性の人々を阻害したり、不快にさせたりする可能性のある言葉やイメージを使用しているパターンです。

【例】居住地や出身地による差別を連想させる表現

地方在住の人物が、不自然な方言で話す様子を強調している。

登場人物のキャラクターや特徴を伝えるための表現だったとしても、見る人によっては不快感を抱く可能性があります。属性に基づくステレオタイプな表現にならないよう留意する必要があるでしょう。

ここで挙げた「あなたと無事故」は、理解しやすいようにタイプ別に分けていますが、既存の見え方に当てはめることなく、表現ごとに違和感の原因を突き止めることが求められます。

「違和感」の放置につながる無意識のマジョリティ観点

ここまでに見てきたとおり、「企業側にとって問題ないと感じられる表現であっても、人によっては違和感を抱く」ことが炎上につながる原因の1つです。では、なぜこうした「違和感」が放置されてしまうのでしょうか。

日本における一般的な属性分類

性別や社会的な立場、収入、人種といったさまざまな切り口で分類した場合、私たち一人ひとりはいずれかの属性に位置づけられます。ただし、各属性の人口比率は均等ではなく偏りが見られるのが実情です。

日本では一般的な属性分類として、「男性」「恋愛対象が異性」「日本国籍」といった属性の人ほど、社会的に力を得やすい傾向があります。こうした属性の人々がマジョリティ(多数派)であることが、マイノリティ(少数派)の抱く違和感を察知しにくくしている可能性は否定できません。

炎上に至らなければよいわけではない

炎上対策を講じるとなると、「炎上しなければ問題ない」という発想に至りがちです。しかしながら、先述したマイノリティに属する人々が表立って声を上げていなかったとしても、各々に小さな違和感を抱いている可能性があります。こうした小さな違和感の蓄積が、ブランドへのエンゲージメント低下を招いていることも十分に考えられるのです。

潜在的なリスクを見過ごさないためには、「炎上していない=問題がない」という捉え方を抜本的に見直す必要があります。なぜ「小さな違和感」が見過ごされやすいのか、ブランドに関わるプロフェッショナルとして関心をもち続ける必要があるでしょう。

よくある炎上対策と問題点

企業によっては、扱っている商材がジェンダーや多様性といった問題とは関わりが薄いととらえているケースもあるでしょう。しかし、自分には関係がないととらえている人ほど、無意識のうちにマジョリティ寄りの視点に立ちやすい面があります。今回の商品・サービス・企画は関係ないと捉えている→とくに対策を講じない→想定していなかったところで炎上する、といったパターンも決して少なくないのが実情です。

炎上対策として、社内勉強会などを開催している企業もあるでしょう。従業員の意識を高めるための工夫として一定の効果が見込めるものの、各従業員の属性やもののとらえ方はまちまちです。意識する・注意を払うといった対策からさらに一歩進めて、実務で活用するための具体的な方策についても検討してみてはいかがでしょうか。

DEIの視点を主観から客観へ

しかし、ブランド担当者が注意を払ったり、複数名によるチェック体制を敷いたりしても、感覚のみで「小さな違和感」を漏れなく察知するのは容易なことではありません。だからこそ、DEIへの視点は主観から客観へ、取り組み方自体を変えていく必要があります。

オリコムでは、ジェンダーバイアス測定基準「GEM®」を日本で推進してきた知見・経験をもとに、生活者が広告を見る視点を独自の指標「DEIスコア」として算出する「DEI Quick Checker™」を開発しました。AIによる定量分析と、アナリストによる定性分析を組み合わせることにより、ブランドを守る炎上リスクの回避にとどまらず、企業やブランドが大切にするより良い表現のご提案ができる点が大きな特長です。感覚や経験則に依存しない客観的な指標を取り入れて、生活者とのより良好なコミュニケーションを実現してみませんか。

多様性・公平性・包括性に関する広告表現でお悩みの方

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