企業が情報発信をする上で、配慮すべき点は多岐にわたります。ジェンダー表現は近年特に重要視されつつある要素の1つといえるでしょう。
前編では、ジェンダー表現が炎上につながる理由や、炎上につながりやすい主な観点について解説しました。後編では、2024年から2025年にかけて実際に起きた炎上の具体的な事例とともに、生活者の声から考える炎上回避策に役立つ視点を紹介していきます。
目次
- 炎上事例1:性別によるキャッチコピーの使い分け
- 炎上事例2:男性蔑視と受け取られかねない表現
- 炎上事例3:性的な要素を連想させる表現
- 炎上事例4:コンプレックスを刺激してしまった表現
- 炎上事例5:セクシュアリティを揶揄するような表現
- 社会的影響力もある広告だからこそ、多様性への配慮は重要
炎上事例1:性別によるキャッチコピーの使い分け
1つめの事例は、製薬会社A社のポスター広告に掲載されたキャッチコピーが物議を醸したケースです。炎上の主な原因と想定される対策について見ていきましょう。
広告の概要・炎上の主な原因
この事例では、女性の姿・男性の姿が掲載されているポスターの2種類がそれぞれ制作されました。女性バージョンでは仕事・育児・家事に言及しているのに対して、男性バージョンでは今の社会や時代のあり方が「疲れ」の原因であるかのように表現している点が物議を醸したのです。キャッチコピーの非対称性が、性別による役割の強化につながるおそれがあるとして、批判の対象となったケースといえます。
生活者の声から考える炎上回避に役立つ視点
人物ごとにコピーが添えられたビジュアルが複数並ぶタイプのクリエイティブ——たとえば、男性と女性がそれぞれの姿に異なる言葉を重ねていくような構成は、無意識のうちに性差が際立ちやすいパターンといえます。クリエイティブを目にした人が「男女で役割や感情の扱われ方に差がある」と感じることのないよう、表現の粒度やトーンの一貫性に対してきめ細かな配慮が求められるでしょう。
炎上事例2:男性蔑視と受け取られかねない表現
衣料品メーカーB社の、商品にプリントされたメッセージが炎上した事例です。メッセージの内容が男性蔑視にあたるのではないかといった声が相次ぎ、発売中止を余儀なくされました。
商品の概要・炎上の主な原因
父親の帰りが遅いことや、父親はいつも寝ているといったメッセージを子ども向け衣料品に印字したところ、男性蔑視ではないかといった指摘を受けるに至りました。「男性は子育てに参加しないもの」というステレオタイプが、こうしたメッセージによって再生産されてしまったことが問題視された大きな要因だったと考えられます。従来は見過ごされがちだった男性に対する差別表現を批判的に捉える生活者が増えつつあることが見て取れる事例です。
生活者の声から考える炎上対策
「これまで炎上したことはないので問題ないはずだ」と考えるのは、リスクが高いといえるでしょう。表現の中でステレオタイプを再生産していないか、取り上げるキャラクターの属性によって表現への配慮の度合いを変えてしまっていないか、といった点をあらためて認識する必要があります。
炎上事例3:性的な要素を連想させる表現
食品メーカーC社のアニメ動画が性的な要素を連想させるとして炎上した事例です。具体的にどのような点が物議を醸したのか解説します。
広告の概要・炎上の主な原因
アニメ動画は女性キャラクターが食事をするシーンを描写したものでしたが、女性キャラクターのポーズや表情が「商品と関係のない性的な演出」と受け取られたことにより、SNSを中心に物議を醸しました。女性キャラクターは露出度の高い服装をしていたわけでも、体型が強調されていたわけでもなかったものの、描き方そのものが問題視された点が特徴的です。
生活者の声から考える炎上対策
描かれ方が性的であるか否かの判断基準に、露出の有無は関係ありません。本来の生活者の姿から離れ、性的に見られる存在として外見や身体ばかりに焦点を当てられることで、人間性や能力が軽視されているように受け取られるか否かが判断の基準となります。これを回避するためには、人物の描かれ方と訴求内容との関連がきちんと伝わるかを、丁寧に検証していくことが欠かせません。
炎上事例4:コンプレックスを刺激してしまった表現
消費財メーカーD社の駅内広告が炎上した事例です。一般的な「かわいい」の基準を否定するコンセプトのポスターでしたが、真逆の意味に受け取られてしまったことで炎上に発展しました。
広告の概要・炎上の主な原因
「目と目の間が〇cm」「顔の大きさ〇cm」といった、容姿に関する画一的な基準を否定する趣旨の広告でしたが、否定されている要素をかえって強調していると受け取られてしまいました。「〇〇である必要はない」という特定の価値観を直接的に否定する表現が、別の価値観を肯定する意図であっても、その前提を強化し可視化してしまった例です。表現の受け取り方は受け手に依存するため、直接的に否定する表現によって「何を否定されたか」よりも「何が語られたか」が印象に残ってしまう場合があります。結果として「言葉にされた価値観」だけが独り歩きすることにもなりかねません。
生活者の声から考える炎上回避に役立つ視点
既存のステレオタイプな価値観に立ち向かう企画や表現を打ち出す際には、旧来の価値観を単純に否定したり、新たな価値観にすり替えるのではなく、多様な価値観が共存する世界を描くことが望ましいでしょう。そのためには、メッセージを発信する際に、「いずれか特定の立場に偏っていないか」を客観的にチェックすることが重要です。
炎上事例5:セクシュアリティを揶揄するような表現
テレビドラマの番組宣伝において、セクシュアリティを揶揄するような表現が問題視された事例です。
広告の概要・炎上の主な原因
ドラマの登場人物を紹介する際、ある人物について「男か女かわからない」という表現が用いられました。この表現がセクシュアリティに着目したジョークとして受け取られたことが、物議を醸した主な原因です。
生活者の声から考える炎上回避に役立つ視点
作り手が面白いと感じる演出や表現に、「からかい」の要素が入っていないかを考慮する必要があります。受け手の属性やバックグラウンドによっては、揶揄されたと感じて傷つく結果を招くおそれがあるからです。とくに性のあり方など個人的な領域の問題に対して、第三者が一方的に品評したり、笑いのポイントとして扱うのは避けなければなりません。
社会的影響力もある広告だからこそ、多様性への配慮は重要
企業発信の中でも、広告は多くの人の目に触れ、社会的影響力もあるからこそ、多様性への配慮がいっそう求められる点を十分に認識しておく必要があります。しかし、依然として炎上が繰り返されていることからも明らかなように、客観性を担保しつつ広告表現をチェックするのは決して容易ではありません。なぜなら、作り手側の先入観やこれまでに積み重ねてきた経験の中に、すでに偏ったものの見方や価値観が含まれている可能性があるからです。
こうした問題の解決に向けた一助となるのが、「DE&I・ジェンダーに関する評価測定サービス DEI Quick Checker™」です。DEI Quick Checker™は、AI+人のチェックにより、コンセプトとDEIの両面から表現の評価・分析を行います。100を基準とした「DEIスコア」によって、生活者が広告を目にした際の感じ方・映り方を客観的に把握できる点が特長です。担当者の直感や経験則に頼らない客観性の高い広告分析を取り入れたい事業者様は、ぜひDEI Quick Checker™をご活用ください。
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