近年、「ルッキズム」が社会問題になりつつあります。人を見た目で判断するのは良くない、といった考え方は広く知られている一方で、知らず知らずのうちにルッキズムを助長していることもあり得るため注意が必要です。
この記事では、ルッキズムの意味や問題視されている背景、ルッキズムを助長させるおそれがある広告表現の例について紹介しています。広告制作時にチェックしておきたいポイントもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
目次
ルッキズムとは
はじめに「ルッキズム」とはどのような概念なのか、その意味や具体例を確認しておきましょう。
ルッキズムには「外見差別」「外見至上主義」の両義性がある
ルッキズムは、一般的には「外見に基づく偏見や差別」と定義されることが多く、見た目を表す“Look”と主義を表す“ism”を組み合わせた造語です。造語が使われ始めた2000年頃は主に欧米で「外見差別」という意味合いで使用されていましたが、日本では近年「外見至上主義」の意味合いで知られるようになってきました。
かつてはテレビ番組などで見られたタレントや芸人の外見を公然と指摘・からかう演出に対しても、最近では批判の声があがるようになってきており、外見的な特徴をもとに人を評価し扱うことへの問題意識が、社会全体で高まりつつあります。
ルッキズムの具体例
ルッキズムはさまざまな場面に表れます。
- 容姿によって勝敗を判定する「ミスコン」
- 見た目と能力を結びつける「成功する人は太っていない」
- 能力ではなく見た目で採用/不採用が判断される「顔採用」 など
いずれもその人の内面や人格ではなく、専ら「外見」によって判断されている点が共通しています。外見が偏重された結果、その人らしさや本来の性格・能力などが考慮されず、良し悪しを一方的に決め込まれてしまう点が大きな問題です。
ルッキズムを助長させるおそれがある広告表現とは

広告は単なる商業的なメッセージにとどまらず、「何が良いことなのか」「どうあるべきか」といった価値観を繰り返し提示し、社会の価値観を形成する力を持ちます。そのため広告に登場する人物やコピーなどの表現が「美しさ」や特定の容姿に偏っていないかを検証することは、炎上対策にとどまらず、広告が果たすべき社会的責任としても重要です。
ここでは、ルッキズムを助長させるおそれがある広告表現のパターンを2つ紹介します。
パターン1:特定の外見を「理想」として提示する表現
特定の身体的特徴を「美しい」「かっこいい」などと理想化し、それに近づくことを良しとする表現は、生活者に“こうあるべき”という価値観を植え付けるおそれがあります。過度に痩せたモデルを起用したり、身体の一部に注目させたりする演出は、こうした表現の一例です。
近年ではアパレル企業の広告などにもプラスサイズモデルが起用されるなど、理想とされる外見を固定化させないための配慮がなされているケースが見られるようになりました。理想的な外見は人それぞれであることを念頭に置く必要があります。
パターン2:外見上のコンプレックスを刺激するような表現
外見上のコンプレックスを刺激するような表現も、ルッキズムを助長するおそれのある表現といえます。たとえば「まぶたは二重のほうが良い」「二重整形で悩みが解決する」といった表現は、特定の容姿を理想とし、それ以外を劣ったものとして暗に扱っている点で、外見上のコンプレックスを刺激し、ルッキズムを助長するおそれがあります。
こうした広告に日常的に触れることで、それまで気にしていなかった自身や他者の身体的特徴に意識が向き、コンプレックスが生まれることもあります。結果として、広告がきっかけとなり、容姿への偏見や差別が社会に広がっていく可能性も否定できません。
パターン3:ルッキズムの否定文脈であっても注意は必要
なお、ルッキズムを否定する意図があったとしても、身体的特徴を広告コピーに用いること自体が、生活者にその特徴を強く意識させてしまう場合があります。「その特徴を気にするべきではない」というメッセージが、かえってその特徴の存在を強調し、逆効果になるおそれもあるのです。実際、ルッキズムを否定しようとした結果、炎上したような事例もあります。
広告は多くの生活者の目にふれるものであり、捉え方は人それぞれ異なります。広告に込められたメッセージが、時には真逆の意味で受け取られるリスクもあることを考慮し、なぜその表現でなければいけないのかを十分に議論しておく必要があります。
広告制作時にチェックしておきたいポイント

ルッキズムを助長しかねない表現の広告にしないためには、どのような点に留意する必要があるのでしょうか。ここからは、広告制作時にチェックしておきたい3つのポイントを紹介します。
人目を引く目的のみで人物を起用していないか
広告に人物を起用する場合、単に人目を引くことが目的の表現になっていないか慎重に確認しましょう。理想化され過度に性的・身体的魅力を強調されたような人物表現と、訴求内容に関連性が見いだされない場合、広告の意図が伝わらないことに加えて、広告において人物が性的に消費される状態を作り出し、ルッキズムを促進してしまいます。
人目を引くためだけにモデルや俳優などを起用するのではなく、広告に込めたメッセージや訴求している商材、背景情報などと関わりのある人物表現になっているか重要です。
ルッキズムの安易な否定や代替表現になっていないか
ルッキズムそのものを安易に否定していないかのチェックも重要です。なぜなら先述の通り、ルッキズムの安易な否定はかえってルッキズムが存在する事実を広く伝える結果をもたらしかねないからです。
また、問題視されそうな表現を単純に別の言葉に置き換えるといった対策も、問題の根本解決にはつながらない可能性が高いと考えられます。たとえば「二重まぶたが良い」を「二重まぶたじゃなくていい」に置き換えたとしても、まぶたという身体的特徴に対して恣意的に優劣をつけていることに変わりはないからです。
第三者の中立な視点から検証されているか
ルッキズムをはじめとする差別意識は、長年にわたる慣習や情報の刷り込みによって意識下に深く根付いているケースが少なくありません。そのため、広告制作関係者だけでなく、第三者が中立な視点に立って検証することは非常に重要なポイントです。自社では問題がないと判断された制作物であっても、第三者が検証した結果、大きな問題が隠れていることは十分に考えられます。
意図せず誰かを傷つけてしまう広告にしないために
ルッキズムは「外見至上主義」と訳されるように、外見以外の要素の軽視につながりかねない点が大きな問題です。ルッキズムに対する生活者の意識が高まってきている今、過去はあまり問題視されていなかった表現だからといって、安心することはできません。意図しないところで誰かを傷つけてしまう広告にしないためにも、DEI(多様性・公平性・包括性)への配慮を制作プロセスに組み込む必要があるでしょう。
DEI Quick Checker™は、正解がないとされる広告表現に客観的な判断の指標を取り入れたい事業者様のためのツールです。好き・嫌い/良い・悪いといった表層の奥にある人間の感情と表現評価の因果関係を研究し、「DEIスコア」を開発。基準値(100)に対するスコアリングをAIが算出するため、客観的な判断がしやすくなります。また、企画の意図を踏まえて生活者洞察に強いアナリストが制作物を考察。リスク回避とより良い表現の2つの視点から、改善の方向性までを提言する点が特長です。AIによる判定とアナリストによる考察の両面から客観性の高い検証が可能なDEI Quick Checker™を、ぜひご活用ください。
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