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  • 有志の集いであるチームの舵を取るプロジェクトマネージャー。
  • 広告表現の分析を担当するシニアストラテジスト。普段はマーケティング部門の室長を務める。
  • ストラテジストとしてプロジェクトに参加。栗原と共に広告表現の分析を担うチームの最年少。
田中:広告やメディアにおける男女の描かれ方を分析し、その平等性をスコア化するジェンダーバイアスの測定基準。それが私たちの推進するGender Equality Measure、通称「GEM」です。近年、広告業界ではジェンダーに対する偏った描写が原因で、炎上騒動に発展するケースが少なくありません。このプロジェクトでは、そうした広告表現における偏見や差別、固定観念といった性別へのバイアスを感覚的な判断ではなく、明確な数値を用いて測定・評価するサービスを日本初の事業として展開しています。

栗原:GEMは2016年に発足した全米広告主協会の研究機関「SeeHer」によって開発され、現在、世界14ヵ国で用いられているグローバルスタンダードな調査手法です。具体的には、男女の描写に対する印象、性別への尊重、切り口の適切さ、ロールモデルとしてのふさわしさという4つの要素をスコア化。スコアは過去の広告から指数化された基準値と比較し、さらにその高低の要因をオリコム独自の定性調査ノウハウを生かして分析しています。

渡辺:ジェンダー平等の実現は、SDGsにおける17の目標の一つにも数えられる社会問題ですが、残念ながら日本の2023年時点でのジェンダーギャップ指数は146ヵ国中125位と最低ランクに位置しています。そうした状況に対し、広告コミュニケーションの側面からアプローチしていくことができないか。有志が集まり、2023年1月より始動したのが、このプロジェクトです。

田中:ジェンダーへの関心は日本でも徐々に高まりつつありますが、多くの企業にとって「何から手を付けていいのか分からない」のが実情だと思います。そこで客観的な数値であるGEMスコアを用いた検証サービスの提供は、その第一歩として有効な手段になり得ると考えています。

渡辺:広告は、生活者の意識や時代を映す鏡だけでなく、世の中の空気をつくる力があると思っています。多くの人の目に触れ、社会に対しても大きな影響力を持つ分、責任も重大です。広告会社だからこそ、こうした課題には進んで取り組んでいくべきだと考えています。
田中:GEMはこれまでにない新しい指標ですが、既にレギュラーで測定の依頼をくださっているクライアント企業もあり、着実に前に進んでいるという確かな手応えを感じています。とはいえ、今はまだ実績を作っている段階です。高い関心を示してくださるものの、受注にまでは至らないケースが多いのも事実。測定事例を増やして、認知度を上げていくのが当面の目標です。

渡辺:ご依頼いただいた測定の結果については、特に実制作を担うクリエイターの方々に重宝していただけているのを感じます。ジェンダーバイアスに限らずですが、無意識な思い込みはどれだけ気をつけているつもりでも起こり得ます。特にジェンダーバイアスはそれが起こりやすい。分析レポートをお渡しすると、本人の意図していない無意識のバイアスが明らかになるので、クリエイティブの検証および改善にご活用いただいています。
栗原:クリエイティビティと公平性の両立は、これからの広告業界における大きなテーマ。チームの取り組みは、長期的なブランド価値の向上や業界全体、ひいては社会全体の進歩にも寄与できるものだと考えています。

田中:広告に携わる者としての使命感は、メンバー全員が感じているはずです。もちろん企業の活動である以上、マネタイズしていくことも重要ですが、世の中の役に立てば売り上げは後からついてくるものだと考えています。社会に貢献しつつ、新しく大きな事業を確立できるチャンスでもあるので、実はすごく夢のある活動なんです。
渡辺:チームに参加して良かったと思うのは、普段の業務ではできない経験ができることです。SeeHerとの英語でのインターナショナルなやりとりもそうですし、そもそも一般社員からすると部長や局長といった役職クラスの人と、ここまで濃密に仕事をする機会もそうそうありません。

田中:多様な価値観が必要なので、部署や年齢、役職に関係なく意見交換し、自由に行動できる場は重要です。発足当初は一応それぞれの分担も決めていましたが、自然と役割にとらわれない動きをするようになってきました。

栗原:普段はマーケティングの仕事が専門ですが、GEMに関しては必要に応じて自分でアポイントを取るなど、営業や広報に近い活動もしています。今までにない経験なので勉強になりますし、仕事の幅も会う人もどんどん広がっているのを感じます。つい最近も国連の職員の方とお話をさせていただく機会があったんです。通常の業務だけをしていたらできない体験なので、すごく刺激を受けています。
渡辺:大げさではありますが、私も2つのキャリアを構築しているような感覚があります。文字通りのいわゆる広告会社で働くマーケターとしてのキャリアと、新規事業立ち上げという事業会社にいるようなキャリア・・・・と言えばいいんでしょうか。脳の動かし方も変わるので、とても刺激的です。これも自主的なプロジェクトならではの面白さだと思います。

栗原:するべきことは山積みなので大変ではありますが、結果として普段の仕事のスキルアップにもつながっているのを感じます。

田中:活動すればするほど考えてもみなかった広がりが出てきているので、先が読めないワクワク感がありますね。知見がたまっていけば、他の社会課題も応用できるかもしれない。もしかしたら広告会社としての枠組みを越えてしまう可能性もありますが、最後は「Can/Can Not」ではなく「Do/Do Not」。「できるか、できないか」ではなく「やるか、やらないか」が大切だと思うんです。ありがたいことに、やりたいならやれる環境がオリコムにはあるので、今後も夢を持ってチャレンジを続けていきたいと思っています。



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