(1)広告戦略策定をリードするアカウントプランナー
この項では、広告会社におけるアカウントプランナーの役割とアカウントプランニングのプロセスについて、もう少し具体的に述べていこうと思う。
一言で言うならば、アカウントプランナーは、広告会社において広告戦略策定−どのような課題を解決するために、広告でどのような人に何をメッセージするのか−を、中心的に推進していく役割を担っている。
日本の広告会社では、その役割は長年「マーケティングプランナー」や「ストラテジックプランナー」等といった呼称で存在してきた。広告クリエイティブの土台となるような、ターゲットの選定や広告メッセージのベースを、リサーチなどを引きながら立案する。いささか乱暴ではあるかもしれないが、アカウントプランナーは、基本的に、そのようなことに関わっている人々であることに変わりはない。
では、なぜ「マーケティングプランナー」や「ストラテジックプランナー」と呼ばれている職名を、わざわざ「アカウントプランナー」あるいはその仕事として「アカウントプランニング」という呼称で再定義する必要があるのか。
我々は、消費者の感情や行動に影響を与える効果的な広告戦略策定とその具現化を、より明確な役割と責任のもとに牽引しているのがアカウントプランナーである、と考えている。
(2)広告の「受け手」「作り手」「送り手」三者への刺激
アカウントプランナーがその専門性を発揮しなければならない対象は、主に左記の三者である。広告戦略を立案し、広告キャンペーンへと具現化していく過程においては、アカウントプランナーがこの三者をいかにうまく刺激していくことができるかが重要なカギになる。
・広告の受け手…言うまでもなく消費者、広告のターゲット
・広告の作り手…実際にCMやグラフィックを作るクリエイター
・広告の送り手…広告主
(3)広告の受け手を刺激する――コンシューマーインサイト
当然のことながら、広告はターゲットとして設定した人々に対して発信され、商品やサービス、あるいは企業態度そのものを、知ってもらったり、好きになってもらったり、あるいは買ってもらったりといった、意図した目的に対する反応を期待して行うものだ。
そのためには、ターゲット(多くの場合は消費者)と商品やブランドとの関わりを知り、広告で何を言えば目的に適った反応を引き起こしてくれるのか、その心の琴線を見つけ出すことが戦略を練り上げていく際の出発点となる。このような心の琴線や、それに深く結びつくターゲットの実態や本音を「コンシューマーインサイト」と呼ぶ。
「コンシューマーインサイト」は、アンケート調査などの量的調査では見えてこない。量的調査が重要ではないと言っているのではない。数字ではっきりと見える重要な事実は多く、量的調査は広告戦略立案に欠かせない存在だ。
しかし、数字で表れている事実や現象がなぜ起こっているのか、そして、どうすればそれを克服でき、この先の消費者の考え方や行動を変えていけるのか。その可能性や方向性を探るためには、フォーカスグループインタビューなどに代表される質的調査の方が断然適性がある。言い換えるなら質的調査は、ある行動のもととなるターゲットの心の奥底にある感情、本音を覗き込むことに威力を発揮する。
[図1] コンシュ−マ−インサイトのための様々な手法
<イメージマッピング>
<バブルドローイング>
<コラージュ>
ただ、一方でそのような感情の多くは言語化しにくいものであり、ターゲット自身も気づいてないものである場合が多い。
質的調査では、そのような無意識にも近い感情を表出させていくために様々な試みを行う。時には絵を描いてもらったり、工作をしてもらったり、ゲームをしてもらったり、日記をつけてもらったり、また時には酔っ払ってもらったり、様々な工夫、実験を組み合わせながら消費者を刺激していくことで、商品やブランドに対する彼らの行動のもとになっている感情や、その行動を望ましいものへと変化させていくためのスイッチにつながる事柄を表出させていく(図1参照)。
(4)広告の作り手を刺激する――クリエイティブブリーフ、ブリーフィング
とはいえ、消費者は戦略そのものを教えてくれる存在ではない。コンシューマーインサイトは、あくまで広告戦略策定のヒントでしかない。しかし、商品の周辺に漂うターゲットの本音、コンシューマーインサイトを得ることで、ターゲットのどのような気持ちを刺激すれば良いのか、そのために広告で何を言えば良いのか、広告戦略策定に関わる重要な要素が見えてくるはずだ。
次なるステップは、アカウントプランナーが、それらを明確な戦略として結晶化し、実際に広告を作るクリエイティブチームへと橋渡しすることである。
このようなアカウントプランナーによるクリエイティブチームへの橋渡し、すなわち広告戦略を明示し、それに則った広告表現−消費者の気持ちと行動に影響を与える効果的な広告表現−を制作してもらうための一連の啓発的な働きかけを「クリエイティブブリーフィング」という。そして、クリエイティブブリーフィングのエッセンス、つまり広告戦略が整理・凝縮され、簡潔で啓発的な言葉で記入された一片の書類を「クリエイティブブリーフ」という。
図2は当社のクリエイティブブリーフのフォーマットである。クリエイティブブリーフを所有している広告会社はそれぞれ決まったフォーマットを持っているが、多少の違いはあれおおよそ以下のような項目からなっている(当社の場合は、これらをより平易な言葉で表している)。これらの項目は、ほぼ広告戦略を構成する要素といって良い
[図2] オリコムのクリエイティブブリーフのフォーマット
・広告の目的
・ターゲット
・商品やブランドに対するターゲットの現在の感情
・広告接触後ターゲットに期待する態度変容
・そのために広告で伝えるべきこと
・それがターゲットに信じてもらえる根拠
・その他留意事項(使用メディアやブランドにふさわしいトーン&マナー等)
クリエイティブブリーフィングを行うにあたって、まず意識しなければならないことは、クリエイターにエキサイトしてもらいながら広告制作に取り組んでもらうことであると考える。何かを創造する人たちにとっては、楽しく取り組める仕事、チャレンジングな仕事でこそ、すばらしいアイデアが出てくるものだ。
コンシューマーインサイトの新鮮さ、そして、そこからひねり出した商品の捉え方やメッセージの切り口の新しさ、つまり戦略自体の新しさや意外性は、常にアカウントプランナーが中心となって追い求めるべきことである。それに加えて、クリエイティブブリーフィングにおいては、様々なレトリックや演出によって、クリエイターにとって「ピンとくる物言い」をしていくことも重要である。
例えばターゲットの表現一つをとってみても「20歳代前半の、内面も外面も自分を磨くことに積極的な女性」と言われるのと、「総務部にいる派遣社員の斉藤さんみたいな人」(あなたの会社に実在するスキャンダラスな女性として仮定)と言われるのとでは、クリエイターにとってどちらがCMやコピーで語りかける対象としてイメージの広がりがあるだろうか。あるいは、普段ティーンエージャーと関わりがないクリエイターに対して、そのプロファイルを言葉で説明するのと、実際に彼らと一緒にTVゲームで遊んでもらうのと、どちらがその気持ちを理解してもらいやすいだろうか。
クリエイティブブリーフィングとは、アカウントプランナーからクリエイターへクリエイティブブリーフを事務的に手渡しすることではない。また、クリエイティブブリーフも、ただシンプルに戦略が記されただけのものではない。
これらは、あくまで課題解決に向けて消費者の気持ちと行動に影響を与える広告表現を作ってもらうための手段の一つである。アカウントプランナーは、「キタ!」と思える広告表現が生み出されるまで絶えずクリエイターを触発し続けなければならない。
あるクリエイティブディレクターは、「良いクリエイティブブリーフィングとは、すぐに会議室を出てその広告を作りたい衝動に駆られるものだ」と言った。なかなか難しい注文である。
しかし、ターゲットの気持ちや商品を捉える際の「切り口の新鮮さ」、そして、彼らにイメージや創造力を広げてもらうための「語り口の新鮮さ」、この二つを絶えず意識しながらクリエイターを刺激していこうとトライアルし続けることが重要だ。
(5)広告の送り手を刺激する――広告主の意思を引き出す・結晶化する
せっかく考えた戦略とそれに則ったクリエイティブができあがったところで、それが世の中に出ないと意味はない(これほど気持ちが萎えることはない)。
コンシューマーインサイトから、消費者の感情を揺り動かすために伝えるべきメッセージを作り上げていくことは一方で重要であるが、同時に、そのメッセージは広告主が伝えたいと思っているものであるかどうかということも重要である。
私たち広告会社は、広告主の顧客接点の一端を担っているに過ぎない。広告だけでなく、商品そのものや、アフターサービスなどの人的接点を含めたすべての接点を通じてブランドが作り上げられていくとするならば、そのすべてに共通した広告主の意思がなければ、一貫したブランド体験を消費者に提供することは難しいだろう。
とはいえ時折、広告主として伝えたいメッセージが一見明確に存在していない場合や、逆に、それが無数に存在し「あれもこれも」という場面に遭遇する。このような場合に広告主の意思を如何に引き出していくか、あるいは無数にあるものを如何に結晶化していくか、ということも我々が考えるアカウントプランニングにおいては重要な要素である。
その取り組みとして、我々は「Orbitワークショップ」という、ブランド戦略及びIMC戦略を広告主と共に考え創り上げる場を広告主に提供している。これは、先に述べた質的調査等を通じて引き出した消費者サイドからの視点と、広告主のキーパーソンへのインタビューや「ワークブック」の提供を通じて得た広告主サイドからの視点を一つの俎上に上げ、広告主と広告会社のチームがブレーンストーミングをしながら、広告主がブランドに込める意思を、定型のブランディングプラットフォームに沿って凝縮し、明文化していく場である。
消費者の代弁者としての新鮮な提言はもちろん、このOrbitワークショップのような場を通じて如何に広告主の思いを引き出すための刺激を加えていくかも、アカウントプランニングにおける重要な要素であることを付け加えておきたい。
(6)根幹の精神――広告の「受け手」「作り手」「送り手」に対するおもてなしの心
ここまで、アカウントプランナーと三者との関わりを通じて、アカウントプランニングのプロセス−広告戦略策定とその具現化のプロセスとそれに付随する手法−を俯瞰(ふかん)的にではあるが述べさせていただいた。
この中で登場したいくつかの手法は、アカウントプランニングにおいて必要不可欠なものばかりである。しかし、本項で取り上げたこれらの様々な取り組みや手法は、すべからくその根幹にある一つの目的と、目的に取り組む際の一つの精神から派生している枝葉末節なものに過ぎない。
すべては、消費者の行動や考え方に影響を与える「効く広告」を作り上げていく、という目的に向けて。
そしてその目的を達成するために、広告の「受け手」「作り手」「送り手」である「消費者」「クリエイター」「広告主」にエキサイトして広告制作に関与してもらうために、「消費者が本音を語りやすい環境」「クリエイターが迷いなく気分良く広告を作ることができる環境」「広告主が伝えたいことを気持ち良く伝えられる環境」を創出する。このように、各者の本音や本領を引き出すための環境作り、言うなれば各者に対して「おもてなし」の精神にも似た気構えを持つこと。アカウントプランニングの手法はこの気構えによって自ずと生まれてきた方法でありプロセスであるのではなかろうか。
この根幹にある目的とそれに取り組む気構えを持ち続けることが、効果的なコミュニケーションを生むアカウントプランニングを実践していく上で、最も重要な事柄であると我々は考える。 |